学校法人トキワ松学園 横浜美術大学 Graduation Exhibition Archives 卒業制作アーカイブ

絵画

武田 菜月Takeda, Natsuki

2022優秀賞
メモワール

油彩、アクリル

162×130.3×3cm

3点

教員コメント北澤 茂夫 教授

子ども時代は、母や父に守られ安心と安全な世界に生きている。そこでは想像力は無限に広がり、自分はどのようなものにもなりきることができたし、おもちゃには生命が宿り意志を持った存在として心の交流ができた。黒猫やぬいぐるみが大きく描かれているが、小さかった自分にとって世界はとても大きく広かったのだ。作者は、そうした子ども時代のオモチャの記憶を「暖かく優しい、でも懐かしく切ない心象世界」と述べ作品化した。
3点の連作だが、中心の作品に大きく子どもの自分が描かれ、周りには風船のような柔らかな物体が包み込むように取り巻く。その外側には左右の作品にまたがる大きな光の輪があり、3点を通して大きな構図が生み出されている。光は重力に作用するのか、オモチャは空に舞い上がる。この構図はルーベンスが生み出したバロック的な回転運動を感じさせる。テーマと構図・構成、空間の描写、暖かく優しい色彩、陰影の関係についても細部まで気配りがされている。
この作品は、作者の心に今も生き続けている、幼い頃の自分と幸せだった時代への郷愁を知的な構成と確かな表現力で描いた秀作である。そして、多くの人が記憶の片隅に持ち続けている感情を刺激し、見る者の心に響いてくるのである。