イラストレーションの魅力のひとつに、現実にはあり得ない光景を視覚的に生み出すことがあります。この作品では愛らしい犬たちが人間のように活躍しています。作者自身の飼い犬とその仲間たちが紡ぎ出す滑稽で愛おしい物語を一つの大きな画面で表現しました。お菓子作りに奮闘する犬たちですが、なかなかうまくいきません。せっかくあわ立てた卵は溢れ、穴の空いた小麦粉の袋をそれと気付かずに引きずっています。注文したケーキを涎だらけにしてしまった犬もいます。ですが誰もそのことで咎めたりしない優しい世界が広がっているために、鑑賞者はいわゆる「癒し」をこの作品から受け取ることができます。作者は過去にも飼い犬であるジャックラッセルテリアを主人公とした物語を一枚のイラストレーションや絵本を通じて制作をしていました。その愛らしい犬の表現はこの作品でますます磨きがかかりました。また様々な種類の犬たちも、それぞれの犬種の個性を感じる表情をもっています。この犬たちのいる世界を見切れるような大画面で描くことで没入感を産み出し、私達鑑賞者はその暖かさに包まれます。